前回の続き・・・。
《がん治療による様々な症状》
【体の一部に起こる症状】
5⃣ 呼吸困難・咳・痰
( 1 ) 呼吸困難・咳・痰について
● 呼吸困難とは、「息切れや息苦しさ」などの、呼吸をするときの不快な感覚のことである。
● 肺がんの患者に多くみられるが、その他の‟がん”でも起こることがある。
● 咳や痰は、‟がん”の治療開始前からみられることがある。
● 咳に痰がからむかどうかは、呼吸の症状を把握し、原因を探るために重要である。
● ‟薬物療法”をしているときに、痰がからまない乾いた咳が続く場合には、重大な副作用である間質性肺炎の可能性もあるため注意が必要ですある。
( 2 ) 原因
1 ) 呼吸困難
● ‟がん”そのもの(肺がんなど)や、‟がん”の治療が呼吸困難の原因となることがある。
● ‟がん”そのものやが原因となるもの
・肺がんなどにより肺の気道(空気の通り道)が狭くなること
・‟がん”の進行に伴い胸腔(肺の外側で、肋骨などの骨に囲まれた空間)に水がたまってしまうこと(悪性胸水)
・肺炎の合併
・体力低下
● がんの治療が原因となるもの
・‟放射線治療”によって肺の組織に炎症が起こる放射線肺臓炎
・細胞障害性抗がん剤や分子標的薬などによる薬剤性肺障害
● その他
・不安や精神的ストレスなど
2 ) 咳や淡
● ‟がん”そのもの(肺がんなど)によるものや、‟がん”の治療による放射線肺臓炎、薬剤性肺害によるものなどがある。
● 風邪や誤嚥及び持病(心不全や気管支喘息など)によって症状が出ていることもある。
3 ) 間質性肺炎
● 間質性肺炎は、肺胞の壁やその周辺に炎症が起こり、血液中の酸素が少なくなった状態で、早めに対処しないと症状が重くなる可能性がある。
● 細胞障害性抗がん剤や分子標的薬などによる薬物療法の重大な副作用の 1 つである。
( 3 ) 呼吸困難になったり、咳・痰が出たりしたときには
1 ) 呼吸困難になったときには
● まずは原因をみつけるために問診や検査を行い、原因によって異なる治療を行う。
ⅰ. 酸素吸入
・呼吸困難があり、検査で血液中の酸素が少ないとわかった場合には、酸素吸入を行い、酸素不足のために弱っていた体の組織の機能を改善させる。
・酸素吸入には、鼻カニュラという鼻にあてる細いチューブや、口や鼻に密着させる酸素マスクなどを使う。
ⅱ. 胸腔穿刺ドレナージ
・胸腔に水がたまっている場合は、局所麻酔をして皮膚を小さく切開し、チューブを挿入してたまった水を外に出す(胸腔穿刺ドレナージ)。
・たまった水が抜けて、呼吸が十分楽になったらチューブを外す。
ⅲ. 薬による治療
・医師が慎重に判断し、モルヒネなどの医療用麻薬や、ステロイドを使うことがある。
ⅳ. リハビリテーション
・病状が比較的落ち着いている場合には、看護師や理学療法士のサポートのもとで、運動、呼吸の仕方(呼吸法)、痰の出し方(排痰法)などについての呼吸リハビリテーションを行うことがある。
2 ) 咳や痰がでるときには
● 咳の症状がつらいときには、必要に応じてコデインやモルヒネなどの医療用麻薬や、デキストロメトルファンなどの薬を使うことがある。
● 痰は、気付いたときにティッシュに吐き出し、ためないようにすることが大切である。
● 痰が硬くなかなか出せない場合には、痰を出しやすくする薬を使うこともある。
( 4 ) 本人や周囲の人が出来る工夫
~ 生活環境の調整 ~
● 換気をよくし、窓を開けたり扇風機を回したりして顔に心地よい風があたると、症状が軽減することがある。
● 室温はやや低めにし、部屋が乾燥している場合は加湿器を使用すると、快適さが増すといわれている。
● たばこを吸っている人は禁煙する。
~ 姿勢や衣類の工夫 ~
● 上体を起こせるベッドや枕・マットレスなどを利用して上半身を起こすなど、楽だと思える姿勢をとる。
● 数時間おきに姿勢を変えると、痰が出やすくなり、呼吸が楽になることにもつながる。
● 衣類をゆったりしたものにする。
~ 痰をこまめに出す ~
● 痰を出すことは、感染症の予防や、呼吸を楽にするために大切である。
● うがいをして口の中をうるおすと、痰にねばりがなくなり、痰が出しやすくなる。
~ 食事の調節や便秘の予防 ~
● 呼吸が落ち着いている楽なときに食べるようにする。
● また、食べやすく、飲み込みやすくするためにとろみをつけた食品を試してみるのもよい。
● 呼吸困難により運動や食事の量が減ると、便秘になりやすくなる。
● 便秘になると、排便時に力むため規則正しい呼吸ができず、呼吸困難の症状が増強するといわれている。
● 水分を多めにとる、おなかをやさしくマッサージする、軽い運動を行うなど、便秘の予防を行うと良い。
~ 心のケア・十分な睡眠 ~
● 不安は呼吸困難を増強させるといわれている。
● 不安や精神的ストレスが原因となっている場合には、身近な人に話を聞いてもらったり、場合によっては心のケアの専門家に相談したりすることが効果的である。
● 夜は熟睡できるように遮光したり、騒音防止の工夫をしたりするなどして、十分休息を取る。
( 5 ) こんなときは相談する
● 呼吸がしづらいと感じる場合には、すぐに担当医や看護師に相談する。
● 呼吸困難が急に起こった場合には、緊急度の高い病気が原因となっている可能性もあり、一刻を争う場合もあるので、ただちに受診する。
● 一方で、ゆっくりと息が苦しくなってきた場合でも、‟がん”によるものだけでなく、心不全や肺炎などさまざまな可能性が考えられるため、医師による診断と治療が必要である。
● 水分や食事をとった後にむせたり、咳、痰が多くなったりする場合には、誤嚥の可能性があるので、すぐに医師や看護師に伝える。
● 症状の現れた時期や頻度、咳に痰がからむかどうか、痰の色、発熱や胸の痛みなど別の症状の有無、日常生活で支障が出たことなどをメモしておくと、診察の際に医師に状況を伝えやすくなる。
次回へ・・・。